2020年の冬。Covid-19の流行により、スキーヤーの活動も制限されるようになった。キャンセルになるツアー、撮影の延期、緊急事態宣言を受けての自粛。「フェイドアウトというか、すっきりしない終わり方だった」と児玉はシーズンを回想する。
「自粛期間中はやはり何もできなかったので、インプットと来シーズンに向けた準備に時間を充てました。これまでは撮影で海外遠征に出かけたり、本を作ったりというアウトプットに専念してきたこともあって、従来のような活動ができないのであれば、頭を切り替えてインプットに時間を使おうと考えました」。
児玉にとってのインプットとは、好きだった読書と体作り。憧れだった植村直己の本をはじめ、20代前半に読んでいたノンフィクションを読み返した。プロスキーヤーとして20年以上にもわたるキャリアを重ねた今だからこそ、新たに感じるものもあったという。そしてあらためてトレーニングの大切さも実感した。
「夏は執筆やイベントでなかなか時間がとれず、体を仕上げてシーズンインできていなかったんですよね。しかも、今年46歳になって、体のこととしっかり向き合う必要も出てきました。スポーツジムでトレーニングをして、トレイルランニングやSUP、マウンテンバイクで体を鍛えました。その効果もあってかなり体のキレがある状態でのシーズンを迎えられました」。
19歳で三浦雄一郎&スノードルフィンズの門を叩き、23歳でプロとして独立してから、プロスキーヤーとして第一線を走りつづけてきた。意図しない再出発だったが、初心に帰ることができた。
「シンプルに、滑ることに対しての渇望感。滑りたいという気持ちの大きさに気づいただけでなく、自分にとって何が一番大事なことなのか、向き合うことができました。スキーができないことでぽっかりと心に大きな穴が空いたんです。そんな物足りない、楽しく感じられない時間が、自分の核はやはりスキーなのだと気づかせてくれました」。
そして迎えた2021年。児玉は2012年からつづけてきた海外スキートリップ『Ride The Earth─地球を滑る旅』を自身のホームである北海道で行うことを決めた。
「海外に行くことができないので、北海道で。初雪、初霜あたりから撮影をはじめました。あらためて北海道を滑って、考え方が変わりました。北海道はいい雪に恵まれているということはわかってはいたのですが、やはり海外に行く価値が高いと思っていたんですよ。
だからこそ、ずっと新しいものを求めて外へ、もっと遠くへということをやってきた。でも、常にフレッシュなパウダーがあるフィールドって、アメリカにもヨーロッパにもなかなかない。北海道はスキーのために神さまが創ったような場所。世界でももっともパウダースノーに恵まれた楽園なんじゃないかと気づいたんです。撮影は雪がまったくなくなる6月まで行い、すぐに執筆に取り掛かり、11月に出版したいと思っています。北海道で『Ride The Earth─地球を滑る旅』を製作するのも、どこか導かれたような感覚があります。世界中を見てきたからこそ表現できることを作品として届けたい。それが今年の一番の楽しみです」。
*プロフィール
「スキーを背負って世界を旅する」をライフワークに、最高のライディングと感動を追い求めるプロスキーヤー。 僻地や高所でのスキーを得意とし、マッキンリー山頂からの滑降、エベレスト登頂、ヒマラヤ未踏峰滑降などに成功。様々なプロジェクトに関わりながら、スノースポーツ振興の活動を行う。
Text / Kosuke Kobayashi Photo /Key Sato