世界中の山岳アパレルブランドが、いま、大きな開発力を注いでいるカテゴリーがある。アクティブ・インサレーション(動的保温)と呼ばれるアイテムだ。
保温力がある化繊綿入りのウエアだが、綿と生地に通気性が備わり、ムレを逃してオーバーヒートを防ぐという魔法のようなプロダクトである。
ストレッチ性と膨張&収縮に富む化繊綿は、体が動くたびにポンプのように熱を出し、フレッシュな空気を取り入れる。それを、覆う生地は、極薄で空気を通しながらも雨や冷気をほどよくシャットアウト。
アウトドアライター歴20年になる著者もこのカテゴリーの愛用者で、ここ数年雪山でのミドルレイヤーといえばコレ。これまで着ていたフリースが、これにとって代わられた。
特定の性能が尖っているわけではなく、あらゆる機能がいい意味でファジー。「あいまいさ」がちょうどいい衣服内環境を提供してくれるのだ。
ホグロフスの2024/25 FWラインナップから登場したアクティブ・インサレーション(動的保温)、ミミック・アラート・シリーズをフィールドでインプレッションした。
(ミミック・アラート・シリーズは、ジャケット、フード、ベストの3種類がラインナップ。)
ミック アラート ジャケット〔メンズ/ウィメンズ〕
https://uplnd.com/products/607446 メンズ
https://uplnd.com/products/607448 ウィメンズ
ミミック アラート フード〔メンズ/ウィメンズ〕
https://uplnd.com/products/607444 メンズ
https://uplnd.com/products/607447 ウィメンズ
ミミック アラート ベスト〔メンズ/ウィメンズ)
https://uplnd.com/products/607445 メンズ
https://uplnd.com/products/607449 ウィメンズ
(シェルを重ね着しやすくて、使いやすいジャケットモデルをフィールドで試してみた。まずは、クロスカントリースキーで発汗を促してみる。)
「保温」と「通気」が両立する不思議
生地と中綿が呼吸する
フリースに代わるミドルレイヤー
タイトに着るのがおすすめ!
一年を通して手放せないファジージャケット
「保温」と「通気」が両立する不思議
これからの寒い時期、アクティビティーの天敵は、汗である。汗をかいた肌に扇風機を当てるとひんやりと冷える。これは、肌の熱を吸収しながら水分が蒸発する気化熱で、体温が奪われるためだ。
「歩きながら、いかに汗をかかずに、体を保温できるか」
人類はこれまでこの難題に全力で取り組んできた。相反する機能である「保温」と「通気」をコントロールできる衣類を求めて。その解決方法のひとつが、このアクティブ・インサレーション(動的保温)である。
(しなやかで、動きやすくて、軽い。ムレにくく、寒く感じることもない。適応温度域が凄まじく広いのだ。山だけに限らず、街でも家でも四六時中着ていたくなる快適さだ。身長178センチ、体重67キロの著者は、Sサイズを着用。)
生地と中綿が呼吸する
気を蓄え、ほどよく空気を通す、薄手のインサレーション=化繊綿シートが体温を確保する。この化繊綿シートは、伸縮性に富み、動くたびに伸び縮みを繰り返して、まさに肺で呼吸しているかのように、温かい空気を放出して、新鮮な空気を取り込もうとする。じっとして動かなければ、温かい空気をキープしたまま。ホグロフスは、この化繊綿に4WayストレッチのMimic SILVERシートを採用し、動きやすさと通気性、軽量化を高いレベルで実現している。
(表地と裏地を比較。どちらもポリエステル生地だが、裏地の方がよりしなやかで、目が粗く、空気をよく通す。)
続いて、Mimic SILVERシート(化繊綿)を包む生地について説明しよう。表生地は、撥水加工が施され、防風性と耐摩耗性に優れたしなやかなポリエステル生地を採用。つまり、アウターとして着ることを想定されて作られている。
(表生地には撥水加工が施され、アウターとして着ることも。生地はしなやかで、引き裂き強度が高いポリエステル生地を採用。刺繍の旧ロゴが左腕にデザインされる。)
一方、内側の裏生地は、さらにしなやかで薄い。太陽にかざしたら透けるくらいの30デニール極薄ポリエステルで、空気をどんどん通して、体のオーバーヒートを防ぐ。それでも汗をかきそうだなというときは、フロントのメインファスナーを開ければ、インサレーションに溜め込まれた熱がスムーズに放出される。
フリースに代わるミドルレイヤー
アクティブ・インサレーション(動的保温)の登場でフリースが不要になったというユーザーが大勢いる。著者もそのひとりだ。アンダーウエアの上に一回着てしまえば、玄関を出たときから雪山の滑走時、停滞時、就寝時まで、ずっと気続けられる。通気性が備わるしなやかな着心地だから、ウールのセーターを着ているようにストレスを一切感じない。
(バックカントリーやゲレンデスキー、雪山登山のときは、アンダーウエアとアウタージャケットの間に着るミドルレイヤーとして活躍する。バックパックの中には、メインの防寒着が入っている。まさにフリースに代わる中間着となる。)
ミミック・アラートは、各社揃い踏みのアクティブ・インサレーション(動的保温)の中でも、比較的やや厚手である。極寒の北欧、スウェーデンらしいボリュームだ。寒暖の体感は個人差があるので、山へ赴く前に、運動量と気温、天候を見極めて「これでは暑すぎないか? 寒すぎないか?」個々で吟味することが大事である。暑そうだなと思ったら袖のないベストを選択できるのもミミック・アラートのよさだ。
(アンダーウエアの上に着ることを想定しているから、首元には起毛生地があてがわれている。着た瞬間ひんやりしない。ユーザーのことを考えた細かい気配りだ。)
タイトに着るのがおすすめ!
ミドルレイヤーとして重ね着するにしろ、アウターとして羽織るにしろ、アンダーウエアの上にピタッと着るのが、アクティブ・インサレーション・ジャケットの基本である。背中を曲げて屈んだり、肘を曲げたり、肩を回したりすることで、インサレーションが伸び縮みして、ポンプのように空気を入れ替えて、体温を調整してくれる。つまり、体に沿ったジャストフィットサイズでないと、機能が発揮されないことになる。「内側に着るのはアンダーウエアのみ」ということを忘れずに、サイズを選ぼう。
(アンダーウエアの上にジャストサイズで着るサイズを選ぶ。身長178センチ、体重67キロの著者は、Sサイズを着用。ちなみにアンダーウエアもSサイズ。)
一年を通して手放せないファジージャケット
冬山シーズンは、アンダーウエアの上に着るアウターとして、また、シェルの下に着る中間着として、ずっと着たままでいられる。アンダーとコレ、たった2枚だけで、街から雪山まで広範囲に移動できるのだから準備もラクで、気分も軽くなる。
一方、夏山シーズンは、保温着として稜線やテント場で体を守ってくれるだろう。ちょっとした雨でも撥水加工が施されているので安心だし、濡れたところでダウンのようにカサが減ることがないし、すぐ乾くので信頼は厚い。自宅の洗濯機で頻繁に洗えるメンテナンスの良さも、忘れてはいけない長所である。
ともあれ、一年を通して山で手放せない1着になるだろう。いや、あまりの着心地の良さに、いまこの原稿を書いている11月末日、書斎のパソコンの前で着ている。もっと言えば、布団から出た瞬間に羽織ってから、夕方の犬の散歩まで、ずっと着ているのである。
Text by Shinya Moriyama
Photo by Chitose Omori